9月23日 正直で、真面目
松浦弥太郎さんのトークを聴きに、代官山TSUTAYAに行ってきた。
最近まで知らなかったが、松浦さん、この4月に「暮らしの手帖」をやめて、なんと、クックパッドに移っていたのだ。
6、7年前だろうか、安田邸で往来堂企画のトークを聴いて以来の、松浦ファンだ。
「私は高校を中退しているから、学歴は中卒、学歴コンプレックスがあります」。そんな話からはじまったトークだった。バイトで貯めたお金をもってアメリカに渡り、英語もろくにしゃべれないのに、頼み込んで、無給で工事現場の手伝いを始めたという、アメリカ時代の話が印象に残っている。
雑用を一生懸命やるうちに、少しずつ認められるようになって、バイト代払ったら、なんて声もあがるようになったある日、熱を出して、2、3日休んでしまった。快復して、おそるおそる現場に出かけると、みんな集まってきて、「どうしたんだ」「心配したぞー」と口々に声をかけられ、みんなの前で号泣してしまった、なんていうエピソードは、今書きながらも、涙が出てくる。
「あの頃みたいに、またゼロから何かを作りあげてみたい」。そんなふうに、結んでいたっけ。
クックパッドには、大学卒の新入社員十数人と一緒に入社したそうだ。社員のほとんどは知らず、入社式で松浦さんの名前が呼ばれると、「えっ、同姓同名?」 とどよめきが起こったそうだ。無理もない。最初の配属は、社長室付。これからこの会社で何をしていきたいか、松浦さんがプレゼンをすることになると、200人近い社員全員が参加を希望したそうだ。 松浦さんとこれからおもしろい仕事ができそう!とワクワクしたことだろう。
トークを企画したのは、料理書売場担当の、元編集者の女性。古書店を経営し、元祖ライフスタイル誌「暮らしの手帖」の編集長が、ウェブの世界に移ったことは、かなりの衝撃だったという。その理由をたずねた質問に、来場者を見ながら、あっさりと答える、松浦さん。
「えっ?これからは、スマホとインターネットでしょ?」
その軽やかさ、自由さに、思わず吹き出してしまった。そんな松浦さんだから、既成概念のとらわれず、古書店ブームの先駆けとなるような、新しいスタイルの古書店を作ったり、「暮らしの手帖」を生まれ変わらせたりできたのだろう。
「クリエイティブであるために心がけていることは?」。来場者からの質問にこんなふうに答えていた。
「素直であること、かな。素直だと、自分の子どもぐらいの年齢の人とも、コミュニケーションがとれて、そこから学ぶことができる」
クックパッドの社員たちは、同僚の松浦さんから仕事以上のことを学ぶことができると思う。ちょっとうらやましい。
トークの終わりに、立ち上がって、来場者を見つめながら、松浦さんは、こう結んだ。
「できるだけ正直に話して、そこからみなさんが何か感じとってくれたらと思って、一生懸命話しました。お役に立てたら、うれしいです」
一瞬一瞬に真面目な姿に、またウルっとさせられてしまった。