10月23日 曇りのち晴れ

森と風の学校に行ってきた。

もう1週間前になるけど、その印象はまだ新鮮で、今この時期、あの場所と出会ったことは、私の人生の後半を方向づける、何か重要なメッセージをふくんでいるんじゃないか、そんな気すらしている。

被災地支援組織、ゆいっこ盛岡企画、宮古でのボランティア+葛巻町での自然体験ツアーの宿泊先が、盛岡のちょっと北、葛巻町の、まさに人里離れた山奥にある、森と風の学校だったのだ。

葛巻町自然エネルギー100パーセントの町だと知ったのは、わりと最近のこと。「ねえ、ねえ、知ってる」と、友達に岩手県出身者として自慢したら、「何の発電?地熱?」と聞かれ、答えられなかったので、ひとつ勉強してみようかなという気持ちもあったし、スケジュールにあった「朝の薪割り、犬の散歩」にワクワクして、参加を決めたのだ。

宮古でのボランティアを終えて、被災地で現実を目の当たりにして、ちょっと落ちた気分で2時間バスに揺られ、ゆいっこスタッフたちが「ジブリのトンネル」とよぶ、長いトンネルを抜けて、森風に到着した頃は、あたりは真っ暗。街灯もなく、携帯もつながらない、そこはまさに別世界だった。

廃校になった小学校の小さな体育館が、森風の教室であり食堂であり、夜はドミトリーになった。

この日の夕食は、盛岡から駆けつけてくれた、海外青年協力隊の活動でバングラデシュに住んだこともある仲間の1人が、バングラカレーをふるまってくれた。廃校になった小学校の校歌の歌詞が掲げられた、古い体育館の床に座って、30人ほどで囲む夕食。外は深い闇に包まれた森。

これって「murmur magagine」で提唱しているオーガニックライフ?

私はすっかりワクワクしていた。

私たちの寝室になったのは、教員住宅を改装した「くるみの家」とよばれる、エコキャビン。「くるみ」とは、「来る未来」の意味。太陽光パネルや薪などの自然エネルギーだけで滞在できる施設なんだそうだ。

部屋の中は天然の木材を使っていて気持ちがいいし、薪ストーブがなんとも暖か。フィンランドの別荘に招かれたみたいだった。それもそのはず、森風はエネルギー先進国である北欧の文化に影響を受けているのだ。

夕食のあと、盛岡での仕事が終わったあと駆けつけたゆいっこスタッフや、若い女性県会議員さんも加わって、今日のボランティアの反省会をしたあとは、スーパーで買出ししてきたビールやつまみで大宴会になった。

ゆいっこスタッフは本当にみんな仲がいい。岩手の人はシャイだけど優しいので、私たちツアー参加者も自然に打ち解けた。12時近くなるとさすがに森風スタッフに促され、エコキャビンに移動して、結局深夜2時まで飲んだ。ゆいっこで震災から半年たった今も熱心に参加しているメンバーは、結局飲むのが好きな人ばかりのようだ。

それでも翌朝は6時起床。朝の森風スタッフの案内で、裏の森の川べりを散歩した。森風で飼っている「こぶし」という犬も一緒。川には小さな橋が架けられていて、森にはハンモックがあったり、丸太で作った展望台があったり。夏にはここでキャンプもしたそうだ。

散歩から帰ると、朝食の準備。薪割りをして、釜でご飯を炊いた。薪割りは力がないと難しくて、気がつくと、男子が精を出して、私は釜の火加減を見たり、味噌汁を作ったり、自然に役割分担していた。

朝食はご飯と味噌汁に採れたての卵とほうれん草のゴマ和えというシンプルなメニューだったけど、ぷりっぷりの卵をぶっかけた卵ごはんは何よりのごちそうだった。

朝食のあとは、外部の人も利用できるカフェ森風で、コーヒータイム。地元のアーティストをはじめたくさんのボランティアが協力して作ったカフェは、まさにトトロの世界。地元の土や廃材を使ったカフェの屋根にはなんと緑の草が生い茂っていた。野菜を植えることもあるそうだ。盛岡から車で2時間もかかるけど、わざわざ来る人けっこういるのも分かる。

コーヒーのあとは、吉成校長の講義の時間。森と風の学校設立の経緯、10年間の活動の歴史などについて聴いた。やってきたばかりの頃は葛巻の人たちに「オウム」と思われたそうだ。印象に残ったのは、学校を作るとき、当時まだ存命だった賢治の弟の清六さんに会いに行った話し。2時間話しこみ、「生きているうちに認められると思うな」「200年先のことを考えろ」と言われたそうだ。「賢治に影響を受けて何か始めようとする人はだいたい胡散臭いんだけど、あなたはちょっとしか胡散臭くない」とも。

最後に、地元のテレビ局が作った10分ほどの番組があったので、流してくれた。観終わったあと、私はみんなに分からないように、涙をぬぐっていた。

宮沢賢治ユング、北欧、マクロビ、冷えとり…。

私が今まで興味をもって、ハマって、でも、結局何の形にもならなかったいろんなことが、ここではすべてつながっている。
暮らしの中で、ごく自然に。
そんな場所があったんだ。
ふるさとの岩手に。

最後にここでの体験を参加者みんなでシェアした。職業も興味も違うメンバーだけど、それぞれが真摯に語らざるをえない、心に響く深い時間を過ごしたようだ。体育館に差す光が優しかった。

帰りに風力発電施設につれていってもらった。北上山地北部の山の頂にある8基の風車が回る光景は圧巻の一言。反対側に目を向けると、切り開いた山肌に牛が放牧されていた。素晴らしい眺めだった。

今度は違う季節に訪れてみたい。そして、吉成校長やスタッフたちと、賢治のこと、食のこと、体のこと、未来のこと、もっともっと語り合ってみたい。