4月28日 晴れ。5月の風

仕事帰り、明治大学であった、田口ランディさん主催の「ダイアローグ研究会」に行った。テーマは原発。ランディさんのツイッターでみつけて予約した。

原発の情報はあふれるほどあるけど、そもそも基礎知識がないので、誰が言っていることが正しいのか、信じていいのか、判断できない。とりあえず、共感できる人の話を聴いておこうと思って参加したのだ。

遅れて会場に入ったら、研究者の大学の先生が原発の構造について話していて、その後、ランディさん、パネリストのリスクマネジメント研究者、新聞記者がそれぞれの立場から発言した。大教室いっぱいの年齢もさまざまな参加者はみんな熱心。メモをとったりしている。でも、私はウトウトしてしまった。大学時代の講義と一緒って感じで。

そんな空気を破る発言が、前のほうに座っていた女性から発せられた。進行にかんするクレームとして。

「なんでこんなのん気にやってるんですか!」

司会者は合理的に対処し、その後一見何事もなかったかのように、会は進行した。大人の対応だった。

ヘンな人?ランディさんの読者には、そういう人も多いんだろうな。あの人、帰っちゃったりしないのかな。ちょっとドキドキした。

休憩をはさんで、第二部に入る前、司会者が「さきほどの方は福島から来られた方です」と、女性に発言をうながした。少し訛りのある女性の発言は10分ほどにおよんだ。会場は静まりかえった。

「知人も死にました。危険区域なので、遺体の捜索もされずにカラスがついばんでいるそうです。仕事も家も、友人も失いました。でも、どこへ行くこともできません。政府は何もしてくれません。タクシーに乗車拒否された人もいます。東京はなんで福島を差別するんですか?福島は東京のバックヤードですか?」

女性は「ヘンな人」ではない。福島の人の怒りはこれが普通、安全圏にいる東京と温度差があるだけなのだ。

発言に対するランディさんの対応が素晴らしかった。この「場」ではなく、怒りをもった「個人」として、女性に向き合っていた。「私もよくキレて、発言したりするけど、勇気をもって発言すると、分かってくれる人は分かってくれるよ」。

第二部が終わったあと、ランディさんは壇を下りて、ごく自然に女性に近づき、抱きしめていた。その後、何人かの参加者が声をかけていた。思いが通じた安心感があったのか、女性はごく普通に談笑していた。

会社なんかでは、「場」を優先して「個人」を押さえて行動するのが「大人」とされていて、今回のことで私もそういう「世間の常識」にだいぶ毒されてるなあと感じたけど、ランディさんみたいに、「個人」として人に向き合って、心を伝えることができる本当の大人になりたい、と思った。それには、正直でなれけばならないし、引き受ける覚悟みたいなものもなくてはならなくて、けっこうしんどいことだろう。でも、そこから生まれる関係は、たとえ一瞬でも、人生のリアリティを示してくれるものじゃないかなって思う。