11月23日 雨のち天気雨のち晴れ

昨夜はエスパでフクダさんと1月の茶話会の打ち合わせってことで飲んだ。若い男と飲むのが好きっていう友達もいるけど、私は飲むなら断然おじさんだね。仕事ができて文化的なおじさんに限り、だけど。ビールをガンガン飲みながら、フクダさんの仕事のこと、学生時代に主催したスペインの政治映画の上映会のこと、最近読んだ本のことなどを終電近くまでしゃべりまくって、楽しかった。

「最近何読んだの?」と聞かれたので、「3日前からハマっているのはこれです」と、日曜日の古本市で買った菊地成孔の『スペインの宇宙食』をバッグからとり出して見せた。「何がいいの?」聞くので、「昭和の匂いと、地方の県立の進学校出身って感じが好きなんです。情報の少ない地方で、好きな音楽を深夜放送を聴いたり、隣の大きな町までレコードを探しに行ったりして、一生懸命追い求めた、そういう感じがして好きなんです」と答えると、東京の都立出身のフクダさんはちゃんと理解してくれた。菊地成孔は実際銚子出身で、高校もたぶんそのあたりの進学校だと思う。

それを聞いていたとなりのイソザキさんが、そのまたとなりの麻布出身のノミヤマさんをさして、「じゃあ、麻布は?」と聞くので、「私立はダメ!東京なら都立です!」と調子にのった私は持論を展開したが、「麻布は自主独立の校風なんだ」と反論してきた。みんな母校には愛があるようだ。

勘定は、まあ期待したいたとはいえ、フクダさんが払ってくれた。今度は食事もごちそうしてくれるらしい。東京出身とはいえルーツが岩手のフクダさん。気に入られちゃったみたいだ。

今日は午後から晴れ間がのぞいてきたので、観れるうちにと、前売り券を買っていた「ハーブ アンド ドロシー」を観に渋谷のイメージフォーラムに行ってきた。かなりヒットしているようで、狭いエントランス付近には人があふれていた。

ここでちょっとした偶然があった。隅っこの丸イスに腰かけてぼんやり床を見つめながら入場をじっと待っていると、通りすぎた人がもっていた紙袋に川上弘美の『古道具中野商店』が入っているのが目に入って、思わずハッとした。

日曜日の古本市に出した20冊ほどの本のうち2冊だけ売れて、私は参加者の中でもちろんブービーだったんだけど、売れた1冊がよしもとばななの『人生って?』だというのは分かったんだけど、あと1冊がどうしても分からない。が、その瞬間、『古道具中野商店』だということを思い出したのだ。で、人波に消えて行った紙袋の持ち主を目で追うと、ご近所で日曜日も来ていた編集者Tさんだったのだ。

あの『古道具中野商店』はBooks195から買ったものに違いない。いやー、すごい偶然かも。でも、Tさんには言わないでおこう。Tさんの作る本のファンだってことは本人にも伝えてあるから、なんか怖がられそうで。

「ハーブ アンド ドロシー」。キュートな映画だった。10月に芸大であった、監督とスカイザバスハウスの白石さんの公開記念トークにも行ったんだけど、そのとき抱いた期待を裏切られなかった。

郵便局員のハーヴィさんがかつての職場を訪ねたシーンが印象的だった。「30年間働いたが、アートの話ができる人はいなかった」。その孤独感、私も理解できる。「でも、自分の好みを人に押しつけることをしてはいけない」と、職場ではアートの話はいっさいしなかったそうだ。ハーヴィさんがこんなにスゴい人だってことも、同僚たちはマスコミをつうじて初めて知ったようだ。本なんて全然読まない銀行員をバカにする私はまだまだだ、と思った。

売れば何億?にもなるコレクションをナショナルギャラリーに寄付した夫妻。「大きな家にも住めてベンツにも乗れるのになぜ?」と多くのアメリカ人が思ったそうで、私も思わずにいられなかったけど、映画を観て分かった。二人にはそれ以上に豊かな、作品への愛、アーティスト達との豊かな交流と彼らからのリスペクト、二人の歴史、そして、夫婦の愛情があるのだ。

金融資本主義のまさに発信地のニューヨークの片隅に、こんな二人が住んでいる、そういう奇跡みたいなことが、たくさんの人の心をあたためているのだろう。